経理担当者 「社長、うれしい報告です。今期は予想以上に会社で利益がでそうです!」
社長 「・・・まずいなぁ。会社ではできるだけ利益は残したくないんだよなぁ。」
経理担当者 「なぜですか?会社で利益が残るのは、そんなにまずいことでしょうか?」
社長 「う~ん、税金の負担がなぁ・・・よし、俺の役員報酬を上げることにするか。」
経理担当者 「税理士の話では、よっぽどのことがない限り、決算後3ヶ月以内じゃないと役員報酬は変えられないようです。」
社長 「・・・」
決算数ヶ月前の社長と経理担当者の会話です。よくあるお話です。
『会社の利益をあまり残さずに、役員報酬をできるだけ多くとる』
果たして、これが本当に節税に繋がるのでしょうか?
検証してみましょう。
Contents
法人で利益を残すと損をする?
法人の税金
会社の税金といえば、①法人税(地方法人税を含む) ②法人道府県民税 ③法人事業税(地方法人特別税を含む) ④法人市町村民税 の4種類になります。
(消費税もありますが、消費税は別の話になりますので、考慮しません。)
各税金の課税団体は次のとおりです。
法人税 ・・・国
法人道府県民税&法人事業税・・・都道府県
法人市町村民税 ・・・市区町村
法人税率の推移
上記の表から、法人税率は昭和の時代には、40%を超えていたようです。
ここ10年間をみても、平成23年3月31日まで法人税率30%と、高い水準でした。
実際には、これに法人道府県民税・法人事業税・法人市町村民税が加算されますので、経営者様が、「法人で利益を残すと損をする」という考えを持つのは当然と言えるでしょう。
しかし、ここ数年で、法人税率は大きく下がってきています。
平成28年4月1日以後に開始する事業年度であれば、法人税率は23.4%になっています。
さらには、法人の儲けである所得が800万円以下での部分の法人税率は、
・・・たったの15%です。
では、現在、法人税と法人道府県民税・法人事業税・法人市町村民税を合わせて税の実質的な負担率はどのくらいでしょうか?
(これを「法人実効税率」といいます。)
現在の法人実効税率
昭和時代は法人税率だけで40%を超えていることを考えると、現在の法人実効税率は所得が800万円以下であれば30%未満であり、それほど高くありません。
役員報酬に対する個人の税金
一方では、役員報酬を上げるということは、その役員に対する所得税・住民税がかかってくることになります。
所得税率は、法人税率に反比例しており、年々上昇しています。
所得税率
所得税は累進課税方式がとられています。
所得が増えるにつれて、税率が上がっていくことになります。
例えば、課税所得が500万円の方の所得税は、
195万円以下 ・・・ 5%
195万円超330万円以下 ・・・10%
330万円超500万円以下 ・・・20%
⇒ 500万円 × 20% - 427,500円 = 572,500円 となります。
(正確には、平成49年12月31日まで、復興特別所得税がかかりますが、軽微であるため考慮に入れていません)
役員報酬をとりすぎると、最高45%の所得税がかかってきます。
住民税率
所得に対して一律10%の税率です。
所得税と住民税合わせると、なんと、
・・・最高税率55%!!!
課税される部分の半分以上を税金として納めることになります。
社会保険料
忘れてはいけないのが、社会保険料です。
「健康保険」・「厚生年金保険」・「介護保険」をまとめて「社会保険」といいます。
法人が役員に対して役員報酬を支払う場合には、社会保険の加入が大原則です。
役員・サラリーマンの、社会保険料の負担率は、額面の15%ほどと言われています。
月収50万円の社長であれば、月額75,000円程度の社会保険料が毎月の役員報酬から天引きされます。
さらに・・・
会社からも同額を支払う必要があります。
しかも、毎年料率が上がっているという末恐ろしい制度です。
どこまで上がり続けるのか、はたまた、どこかで制度が切り替わるのか、破たんするのか、誰にも分りません。
愛知県の平成28年4月分以降の保険料率は
・・・29.378%
これを、会社と役員とで折半することになります。
個人の節税で忘れてはいけないのがコチラ
じゃあ、実際どれくらい違うの?
次の前提で、法人の税金・社会保険料と役員個人の税金・社会保険料の総額が、どの程度変わってくるか、シミュレーションしてみます。
税引前利益が1,200万円(役員報酬支払前の利益)の会社が、
①役員報酬を一切支払わない
②役員報酬を600万円支払う
③役員報酬を1,000万円支払う
①役員報酬を一切支払わないケースであれば、社会保険料の負担がまったくありませんので、トータルでは最も節税になります。
ただし、すべてを会社の内部留保に充てるというのは、現実的ではありませんので、よっぽど特殊な事情がない限り、考えにくいのではないでしょうか?
次に、②「役員報酬年額600万円支払うケース」と③「役員報酬年額1,000万円支払うケース」の比較です。
上記より、②「役員報酬年額600万円支払うケース」のほうが、95万円もトータルの税金・社会保険料の負担が少なく済みます。
「役員報酬の金額を変えるだけ」です。
ただし、役員報酬は、原則、事業年度開始後3ヶ月以内でないと変更することができません。
(業績が著しく悪化する特殊な事情があった場合や役員の職制上の地位の変更があった場合等は認められるケースもあります)
そのため、事業年度開始後、精度の高い事業予測ができ、それに見合った役員報酬を設定することができれば、ピンポイントの役員報酬の数字を導き出すことも可能です。
役員報酬を決める際に最も重要なこと
これまで、役員報酬の支給額を、税金・社会保険料の側面から考えてきました。
確かに、この方法で一番損をしない役員報酬の数字を導くことができます。
それによって、会社にお金も残り、将来の事業拡大や退職金の原資として積み立てておくことができます。
それこそが、私ども税理士の腕の見せ所になります。
しかし、一番大事なのは、社長ご自身が、「どれくらいの役員報酬をとりたいか?」ということです。
ただし、役員報酬をたくさんとって、会社が赤字になっては本末転倒です。
そこで、「その役員報酬をとるためにはどれくらいの売上が必要か?」「どの程度の粗利率を確保すればよいか?」ということを数字として認識することが大事になります。
その次の段階で、「その売上を得るには何をすべきか?」「その粗利率を確保するにはどういう工夫をすればよいか?」というのを具体的に掘り下げていき、事業計画を作るというのも非常に有意義であると感じます。
『社長がとりたい役員報酬をスタート地点として、税負担のバランスを考えながら、今期のゴールを定める』
それがモチベーションとなり、事業に真剣に集中して取り組める環境ができれば、それがベストなのではないでしょうか?
是非一度、専門家にご相談ください。
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